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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)2271号 判決 1955年10月29日

原告 初谷清逸

被告 金森勇助

主文

被告は原告に対し神戸市灘区御影町郡家字上山田百九番地の七地上木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十五坪四合五勺二階坪七坪七合五勺を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行宣言を求めその請求原因として、

「主文第一、二項掲記の家屋は原告の所有であるが昭和二十六年六月頃から被告に対し右家屋を被告が大和油脂工業株式会社の取締役就任期間を条件として、使用させた。ところが被告は昭和二十七年一月末日前記会社の取締役を辞任したので本件家屋の使用貸借は終了した。

よつて被告は本件家屋を明渡す義務があるから原告は被告に対し之が明渡を求める為本訴請求に及んだ」と述べた<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として「被告が原告主張の本件家屋を占有している事実は認めるがその余の事実は否認する。被告は本件家屋の賃料として本件家屋竝びにその敷地に対する固定資産税を負担する約旨で以来被告は之を支払つているものであつて被告の本件家屋の使用は使用貸借契約ではなく賃貸借契約に基く。従つて賃貸借契約が適法に解除されない以上被告は本件家屋を明渡す義務はない」と答えた。<立証省略>

理由

本件家屋が原告所有の家屋であり被告が之を占有していることは当事者間に争がなく成立に争のない乙第一号証の一乃至八及び原告本人訊問の結果によれば原告は大和油脂株式会社を経営しているが昭和二十六年六月被告は、同会社の経理担当の取締役として入社するに際し、被告は訴外関西金属株式会社に勤務していた当時の社宅に居住していたので被告の入社条件として大和油脂株式会社に於て家屋を買入れ被告が同訴外会社に勤務中、被告に無償提供することとし本件家屋を買入れ原告名義に登記し被告が居住するに至つたこと被告が入居するに先立ち、本件家屋を修理したがその修理費に約三、四万を要し、右修理費は同訴外会社が支払つたことを知り被告より本件家屋及びその敷地の固定資産税を負担する旨を申入れ被告が入居来の固定資産税を支払つて来たこと被告は昭和二十七年一月訴外会社の機構縮小の為の人員整理により訴外会社より円満退社した事実を認めることが出来る。右認定に牴触する。被告本人訊問の結果は借信し難い。

右認定の事実によれば本件家屋は社宅として、被告に提供されたものであることは明かであるがおよそ社宅についてはその実態に種々のものがありその使用関係は如何なる契約関係であるかは各場合を具体的に考慮して決定しなければならない。之を本件社宅の使用関係について考えると前示認定の如く一般従業員と異り経理担当の取締役と言う、特殊な地位にある被告に対し被告の前勤務先の社宅より立退く必要があると言う特殊事情から特に被告の為に本件家屋を買入れ被告に提供したこと、並びに固定資産税を負担するに至つたのは当初社宅の使用にあたつて原告が之を要求し之を被告が承認したものでなく被告より入社後好意的に負担を申入れた結果によるものであることを考えると固定資産税相当額の負担は社宅貸与の対価と解すべきではなく社宅使用に対する謝礼的な意味を持つものと解せられるから本件社宅の使用関係は負担附の使用貸借とするのが相当である。そしてその使用貸借は、取締役である身分を喪失すれば終了すると言う解除条件付のものであること前示認定の通りであるから被告が取締役である地位を去つた以上、本件家屋を原告に対し明渡す義務があると言わねばならない。

然らば原告の本訴請求は正当であるから之を認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。尚仮執行宣言については之を附するのは相当でないと認めその申立を却下する。

(裁判官 松浦豊久)

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